たゆたう

愛を叫んだり考えたり悩んだり、のあいだでたゆたうように生きている

back number「003」

back numberの003という歌が、なかなか人には言えないけれど結構好きだ。

 色気のあふれるメロディがかっこよくてどきどきしてしまう。とりわけ私はベースの小島和也推しなので、ベースが活躍するこの歌はついつい贔屓したくなる。……と、ここまで語ってわかるように、私の003の好きなポイントは主にメロディとか雰囲気だ。正直、歌詞が特別好きだとか、そういうわけではない。

 

でも、ある日ぼんやりと003を聴きながら心の中で口ずさんでいて、あれ?と思った瞬間があった。繰り返し歌われる「こんなものじゃ君の胸は打ち抜けない(原文ママ)」という歌詞だ。「濁った情熱」では「打ち抜けない」、というのはわかる。でも「澄み切った情熱」でも「打ち抜けない」のはどうしてなんだろう?

 

ふとそう思って改めてしっかりと歌詞を噛み締めながら聴いていたらどんどん解釈という名の妄想が膨らんでいってしまったので、とりあえず文章にしてみようと思う。ここから先はちょっと堅めの文章で書いているので自信ありげに見えるかもしれないけれど、全て私の妄想の産物なので、これ以降の各文のあとには全部「~なんちゃう。知らんけど」がついていると思って読んでほしい。

 

 

この歌の登場人物は二人、すなわち「僕」と「君」である。「僕」目線で語られているので「僕」自身の客観的な描写はなく、彼がどんな人物なのかはなかなか想像がつかないが、「君」についてはある程度想像することができる。「心を隠したまま」でドレスを「簡単に脱ぎ捨て」ることのできる女性ということは、彼女はそういうことにわりと慣れているというか、抵抗のないような人なのではないか。「心を隠した」≒「『僕』への恋愛感情はない(ように見える)」。つまり、愛情もない(ように見える)のにそういうことができる、そんな女性。というように見えているのだと思われる。
一番の段階では「僕」には女性の「心」は見えていないから、「僕」も「濁った情熱(=性的欲求)」で彼女を抱いている。まあ、要するに体だけの関係ということなんだろう。「君の胸は打ち抜けない」のも体だけの関係だから。恋愛感情のあるはずがない関係だから。(「君を連れ去ろうと」しているあたり、「僕」は女性のことが好きなのだろうけど、表面上はたぶんそういう関係ということになっているのだろうと思う。)

 

でも、二番サビで二人の関係性に変化が現れる。一番では「心を隠した」ままでの行為にも抵抗がない人物であるかのように描かれていた「君」が、「澄み切った感情」を持っていたのだ。具体的にどういう感情なのかはわからないけど、もしこれが「僕」への恋愛感情かそれに近いものだったとしたら…と考えてみる。もしそうなら、「僕」はそんな感情を持ってくれていた相手を欲望のままに抱くのに罪悪感を覚えて「話が違うぜ」となったのだろう。そのままこれまで通り欲望に任せてことを進めても、「君の胸は打ち抜けない」。なぜなら、今度はただの肉体関係じゃなく、恋愛感情を含む関係になってしまっているから。まだ今は「漏れ出す」程度の感情だけど、そこから完全に「打ち抜」こうとするなら、ただ体を重ねるだけでは意味がない。もっと根本的な、心情的なところからアプローチをしていかないと完全な恋愛関係にはなれない。「僕」はここで、両片想いかもしれないけどこのままではだめだと悟っているのではないだろうか。

 

続いて登場するのが「僕の目の前にいる今の君は偽物だろ」。無いと思っていた「君」の「僕」への恋愛感情(らしきもの)に気付いてしまったというここまでの流れからすると、「僕の目の前にいる今の君は(僕のことが好きなように見えるけど、そんなことありえるはずがないから)偽物だろ」ということだろうか。「君」の「澄みきった感情」に気付いてしまった「僕」の戸惑いが描かれる。舞い上がってしまって現実味が感じられないという意味である可能性もなくはないけれど、この歌で繰り返されている「君の胸は打ち抜けない」というフレーズからは苦悩のようなものが伝わってくるから、そのような浮かれた感情を描いている可能性は低いかな、と考えて「戸惑い」と解釈した。

 

そしてラストサビ。「情けなく澄み切った情熱」という詞が登場する。最初は「濁った情熱」だったのが、「君」の「澄み切った感情」に気付いて、「澄み切った」ものへと変わってしまった。体だけと割り切っていたはずだったのに、どうしようもなく「君」への愛しさが込み上げてきたのだろう。それでもなお、体だけと思っていたのが恋愛感情を挟んだ行為へと変わってもなお、まだ「君の胸は打ち抜けない」。「君」はまだ「僕」にとってはミステリアスで、何を考えているのかわからない。自分を好きなんじゃないかと思わせるような様子もあったが、それは現実ではなく「偽物」の仕業だったかのように見える。

 

そういう風に考えていくと、「僕」にとっての「君」はやはり手の届かない片想いの相手だったのではないだろうか。ここで根本的に描かれているのは、「僕が好かれるわけがない」という、例えば高嶺の花子さんなんかのような、清水依与吏お得意のうじうじ片想い系男子なのではないだろうか。ただ状況がちょっと大人向けだっただけで、根っこにあるのはいつものちょっと気弱で自分に自信のない恋に悩む男の子。

 

まあ、ここまでは全部完全に私の妄想なので合ってるかどうかなんてわからないけれど、もしこの解釈が合っていたとしたら清水依与吏のソングライティング能力はやはりいい意味で恐ろしい。こんなピュアな感情をオトナなムード満載の曲に仕上げられるとは。何よりもサビがすごい。全体で詞はほとんど変わらないのに、「濁った情熱」→「澄み切った感情」→「澄み切った情熱」だけで心情の変化を表現してしまえるところ。そしてそれに伴って「君の胸は/君を打ち抜けない」の意味が違って聞こえてきてしまうところ。最小限のバリエーションだけで二人の登場人物の間で揺れる感情をきれいに描き出してしまう、すさまじい表現力だ。

依与吏さんには珍しくオトナな歌だな~なんて思ってたけど、これはただのオトナな歌じゃない。清水依与吏らしさがひっそり見え隠れするオトナな歌なのだ、と私は思う。知らんけど。